何かが爆発したかと思った。

携帯電話のアラームによって半ば強引に夢の世界から引きずり出された私の意識はまだはんぶん眠ったままだったけれど、条件反射のように床に置いた携帯電話に手を伸ばすと布団から飛び出した腕が冷たい空気に触れて一気に現実に引き戻される。

(さむい・・・)

まだ開ききらない目で携帯電話のディスプレイを見ると時計の表示は6時ちょうどになっていた。どうやら時間通りに目覚めることができたようで、安心した。今日は他校との練習試合がある。2年の私は試合に出場することはできないのだけれど、どうしても遅刻できないのにはわけがあった。せっかくの日曜日なんだし、このままもう少しあったかいおふとんに包まれていたいと思いながらもう一度、携帯電話のディスプレイに目をやる。時計の表示は6時2分。

(起きなきゃ・・・)

無理やり身体を起こしてなんとか布団から脱出する。やっぱり寒い。12月に入って急に気温が下がった気がする。12月も3日が過ぎて、今年もまた今日という日がやってきた。
もう一度、携帯電話のディスプレイをじっと見つめてみる。時計の表示は6時4分に変わっていた。その上には時間の表示よりも少し小さなフォントで今日の日付が表示されている。なんて素敵な数字の並びだろう。今日はぜったいに何かいいことがある。そんな気がした。










12月4日日曜日。気持ちの良い青空が広がりますが、西高東低の気圧配置で例年よりも気温は上がらず、時折吹く強い北風で体感温度はもっと低くなるでしょう。今日お出かけの方は暖かくしていってくださいね!時刻は間もなく6時58分、それではみなさん、いってらっしゃーい。

「あれ、若くんだ」

お天気お姉さんに笑顔で見送られた後、玄関を出てすぐ目に入った幼馴染の姿に思わず声がこぼれた。その声といっしょに白い息がふわ、と漏れ一瞬視界が白く曇る。

「どうしたの?これから部活?」
「いや」

私の問いかけに即答すると、首に巻きつけた白いマフラーに顎を埋めて続ける。「今日、練習試合なんだろ」寒いのか、両手を制服のポケットに突っ込んだで両方の肩は強張るように上がっている。ずっとそんなふうにしていたらきっと肩こりになっちゃうだろうなぁ、とぼんやり思った。

「そうだけど・・・あれ?どうして若くんそんなこと知ってるの?」
「レギュラーが試合に出るんだってな」
「うん。真田先輩も柳先輩も出るみたい。この二人のことは若くんも知ってるよね?」
「もっと有名なやつもいるだろ」
「有名?・・・あ、そうだね。幸村先輩!」
「・・・・・・」
「でも幸村先輩、今日の試合には出場しないらしいけど」
「フン・・・さっさと行こうぜ」
「あ、もしかして若くん、偵察?」
「寒い」

私の問いかけを悉く無視すると若くんはマフラーに顔を埋めたまま、両手を突っ込んだまま、肩を強張らせたまま、要するに見るからに寒そうな様子ですたすたと歩き出した。若くんはこんなに寒がりだっただろうか?道場では真冬でも裸足だから、若くんはなんとなく寒さに強いイメージがあった。だけどやっぱり若くんに似合う季節は冬かなぁ。夏の大会でずいぶん日焼けしたはずの肌はいつのまにかその色が抜けてきたようにおもう。白いダッフルコートを羽織った若くんは振り返ってちらりと私を一瞥すると「置いてくぞ」小さく零す。「あ、あ、待って若くん!」いつの間にか小さくなっていた若くんの背中を慌てて追いかけると心なしか若くんの歩幅が少し小さくなった気がした。









若くんとは、物心つく前からの幼馴染だ。通う学校は小学校から違っていたけれど、私がまだ小さかった頃に若くんちの道場に通っていたこともあって今でも仲良くしている。テニスを始めたのを機に私は道場をやめてしまったけれど、若くんはテニスを始めてからも稽古を欠かしていないようで、部活帰りに若くんちの道場の前を通りかかると若くんが師範に稽古をつけてもらっているのを見かけることがよくある。他県の学校に通っている私が家に帰る時間まで稽古をしていてテニス部でも次期部長だなんて囁かれていて、本当に若くんは努力家だ。テニスだって私よりもずいぶん後に始めたのに、今ではすっかり若くんの方が上手くて強くて、男と女ということを差し引いたとしてもそれはもうくらべものにならないというか比較対象にするのも憚られるくらいだった。
でもそれは私と比較して、という話であって。
相手がこの王者立海の男子テニス部の先輩となれば話は別だ。いつも部活をしていて思うのが、本当に男テニのレベルはわけがわからない。私もあまり詳しい方ではないのだけれど、全国大会優勝チームっていうのはああいうものなんだろうか。真田先輩も柳先輩も何がどうなっているのかよくわからないけれどとにかくすごいということはわかる。そうなると、そんな2人でさえ勝てないっていうあんなにも優しそうであんなにも繊細であんなにも格好いい幸村先輩が、あの真田先輩のスマッシュとかあの柳先輩のリターンを打ち返すところが全く想像できない。どんな戦い方をするんだろう。
幸村先輩のテニスはまだ見たことがないけれど、丸井先輩のテニスは強いだけじゃなくて見ているひとを楽しませてくれるのもいいとおもう。綱渡りも鉄柱当ても天才的で、しかもあの容姿だから女テニの先輩たちにもすごく人気がある。丸井先輩とペアを組んでる桑原先輩は見た目とは裏腹にすごく優しくて、この前たまたま私がひとりでテニスボールを両手に抱えていたとき何も言わずに手伝ってくれたのだ。でも女テニの後輩の子も前にそんな話をしていたから、きっと桑原先輩はみんなに優しいんだろうなぁ。そんな風には見えないのに。優しいといえば柳生先輩で、いつだって紳士的な柳生先輩は女テニの中でいちばん人気だったりする。桑原先輩も柳生先輩も優しいのは同じなのに、なんだか桑原先輩が可哀想だ。模範生徒として通っている柳生先輩はテニス部外でも有名で、たとえば校則にうるさい体育の武田先生が授業に遅刻した生徒を叱るときいつも引き合いに出すのは柳生先輩の名前だった。柳生先輩みたいになんて簡単になれるわけないのに。
それとあと、もうひとり。

「あ、そういえば」

斜め前を歩く若くんはやっぱりひどく寒そうだ。鼻までマフラーに埋めている姿はひどく滑稽で、なんだか若くんらしくない。

「若くん、明日誕生日だねぇ」隣を歩く幼馴染の横顔を見上げてそう言うと、「ああ、そうだったか」いかにも無関心なところは若くんらしいな、と思った。自分で自分の誕生日を覚えていたかどうかも疑わしい。でも去年は氷帝のテニス部の人たちに盛大にお祝いしてもらったみたいで、その話をしているときの若くんはひどく面倒くさそうな表情と投げやりな口調になっていたけれどそれでもどこか嬉しそうな感じだったからもしかしたら案外今年の誕生日も楽しみにしているのかもしれない。想像してみると少しほほえましくなる。
視線だけ私にくれた若くんはじっとそのまま私を見つめていたから、もしかして私の思考が読まれているんじゃないかと思って「え?なに?若くん」動揺しているのを悟られないように笑顔で首を傾げてみると「別に」吐き捨てるように呟くと若くんの視線はまた真っ直ぐ前を向いた。歩幅はさっきまでと変わらない。私と若くんの間にある半歩は縮まることも広がることもない。

明日が12月5日ということは、今日はその前日というわけで。

「実はね」

12月4日。

「立海で、今日誕生日の先輩がいるんだよ」

仁王先輩のお誕生日だ。














あと、もうひとり。
というのは、その仁王先輩のことだ。私がいくら若くんでも勝てないんじゃないかなって、思っている先輩。

「若くんと誕生日が前後なんだよ、ぐうぜん!」
「誕生日に偶然も何もないだろ」
「でも、自分の知ってる2人の誕生日が前後って、あんまりないかなって」
「まあ俺には関係ない話だ」
「関係あるよ!」
「フン・・・12月生まれってこと以外にどんな関係があるっていうんだよ」

若くんはときどきこうしてひとを小馬鹿にしたように笑うことがある。ほんとうに、こういうところは昔から変わらないんだから。仁王先輩と若くんの関係って、それは誕生日が12月で・・・ということ以外とっさに浮かばなかった私は若くんに何も言い返すことができない。もしかしたら本当に誕生月以外関係なんてないんじゃないかと思えてしまうけれど、それじゃあ若くんの思うつぼだ。若くんに小馬鹿にされるのは慣れているけど、決して傷つかないわけじゃないのだ。私が仁王先輩について知っていることを一から思い出してみるけれど、容姿からしゃべり方から性格まで何もかも若くんとはかけ離れすぎていて、可能性があるとすれば血液型なんだけど、よくよく考えてみると私は血液型を知らない。仁王先輩じゃなくて、若くんのほう。仁王先輩の血液型は知っているのに、幼馴染の血液型を知らないなんて。若くんの呆れ顔が容易に想像できた。

「やっぱり関係ないんだな」
「そんなことないよ!」
「・・・じゃあ何だよって聞いてるだろ」
「えっと・・・若くんの血液型って」
「・・・はぁ?」
「血液型・・・何だったっけ?」

意を決して訊ねてみると想像通り、若くんの眉間には皺が寄り眉は上向きに角度を増し口は歪みに歪んでしまった。お前そんなことも知らなかったのかよという言葉が顔に書いてあるということが私にもわかる。ひどく気まずい気持ちになって思わず顔を伏せていると上から降ってきたのは意外な返事だった。

「俺のを訊くってことはお前、その先輩の血液型知ってるってことか」
「うん、知ってるよ」
「何でだよ」
「え?」
「はぁ?マネージャーでもないくせに、男子テニス部の先輩の血液型とか普通知らないだろ」
「そ・・・そう?かなぁ?」
「お前、その先輩とどういう関係なんだよ」

ふいにそんな質問をされてフリーズしてしまったのは言うまでもない。

「口、空いてるぞ」

ぜいぜい5秒くらい、だっただろうか。
予想もしてなかった若くんの質問は実に的確というか、的を射て当を得るというか、とにかくそんな感じだ。どうして私が仁王先輩の血液型を知っているのか。特別に親しくしているわけでは決してない。テニス部の先輩、それだけだ。仁王先輩からしてみればきっと良く見積もっても女子テニス部の後輩、というだけだと思うし、何度か会話をしたことはあるけれどそんなこと仁王先輩はいちいち覚えていないかもしれない。女テニの部員数だって決して少なくないし、そもそも仁王先輩は女テニの先輩とだってあまり会話をしているところを見かけないのだから2年の私のことなんて顔も名前も知られていない可能性だってある。要するにそういうことだ、私と仁王先輩の関係なんて。

「その先輩は何型なんだよ」
「AB型・・・」
「俺の血液型は?」
「・・・ごめんなさい」

素直にそう口にすると若くんは「フン」と小さく鼻で笑うだけだった。変なところで子供っぽいところがある若くんのことだからもっと不貞腐れるかと思っていたのだけれど、どこか楽しそうにすら見えてくるから不思議だ。私の血液型を知られていようがいまいがどうでも良いということだろうか。それはそれでなんだか淋しい。

「で?」
「え?」
はその先輩とどういう関係なんだよ」
「どういう関係って・・・」
「・・・・・・」
「・・・ただの先輩と後輩、だよ」

自分で言っておきながらずいぶんと哀しい気持ちになってしまって困る。心臓がきゅっと締め付けられているような感覚に襲われて下唇を噛み締めた。ただの先輩と後輩。仁王先輩にとっての私はその程度なのに、私のとっての仁王先輩はただの先輩では到底収まりきらないくらいに大きな存在になっていて、それは私の頭の中と心の中のほとんどを占めていると言っても過言ではないのだ。要するに私にとっての仁王先輩は特別なひと、というわけで。

「・・・はぁ」
「なぁに、若くん。今日はため息が多いね」
「何てカオしてんだか」
「え?」
「そういう淋しそうなカオ、簡単に男の前でするもんじゃない」
「? どういう意味?」
「無防備すぎる」
「無防備?」
「まだ気づかないのか?」
「だから、さっきから若くんの言ってることわけがわから・・・」

瞬間。
魔法は、解けた、

「まぁ、そういうところも可愛いって思っとるんじゃがの」

らしい。

「いくらなんでも遅すぎるぜよ」

朝私の家の前で会ったのは間違いなく若くんだったし、さっきまでずっと隣を歩いていたのも会話をしていたのも間違いなく若くんだった。幼馴染の私が言うんだから間違いない。・・・血液型は知らなかったけれど、それでもあれは若くんだった。確かに、若くんにしてはずいぶんと寒がりだったしなんとなく反応が普段と違っていたりおかしなところで笑ったりよくよく考えてみるとちょっと若くんらしくないところもいくつかあったし、そもそも立海に私以外の知り合いなんていないはずの若くんが今日の練習試合のことなんて、ましてや試合会場がどこかなんて知れるわけが。
と、考えるまでもなく答はとっくに目の前に出ている。百聞は一見にしかずというかなんというか。今私の隣でマフラーに顔を埋めて両手を突っ込んで肩を強張らせて、ひどく寒そうな様子でじぃいっと私を見下ろしているのは紛れもなく仁王先輩だ。

「・・・・に 仁王せんぱ・・・い?」

仁王先輩は悪魔でも騙せるんだって、誰かが言っているのを聞いたことがある。

「プリッ」

だったらこんな小娘ひとり騙すことなんて造作もないことじゃないか。
頭ではわかっているはずなのに、それをうまく噛み砕くことがなかなかできない私を見て詐欺師は不敵な笑みを零した。










どうして仁王先輩が?どうしてわざわざ若くんのフリをして?どうして私の隣を歩いているの?
数えきれない数の疑問符が私の頭の中にぷかぷかと浮かび上がってふわふわと漂ってはまたひとつ新しい疑問符がつむぎだされて、もうわけがわからない。仁王先輩のイリュージョンというあの技をしかもテニスコートの外でまさか私が受けることになるとは想像もしていなかったのだけれど、それにしてもいったいどうしてこんなこと。

「ああ あのう、訊きたいことが、たくさん」
「何じゃ?」
「どうして、その、えっと、あの」
「慌てんでもええき」
「仁王先輩が、どうして、その 若・・・日吉くんに」
「ん?そんなもん、理由はひとつしかないぜよ?」

あまり関わったことのない男の先輩、しかも仁王先輩を目の前にしてひどく緊張してしまっている私はうまく言葉を口にすることができない。躓いてばかりいる私と違って普段通りそのものの仁王先輩はそんな私を見てくすくすと笑っている。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。格好いい。

「氷帝の日吉は、お前さんの幼馴染なんじゃろ?」

だから、なんだというのだろう。
仁王先輩は得意げに答えると「遅刻するぜよ」足を止めてしまっていた私を促すようにゆっくりと歩き出した。すぐに私が追いつけるような歩幅で。

「そ そうですけど、そういう意味ではなくて、どうして」
「今度は俺が質問する番じゃき」

すぐに仁王先輩の隣に追いつくと、仁王先輩は口元だけでにやりと笑った。
この笑顔が。仁王先輩のこういう表情が私は好きで、まさかこんな、隣を歩いているタイミングでしかも自分に向けられているのだと思うとどうしようもなく心臓がドキドキしてしまって、苦しくて苦しくて仕方がない。

にとって俺はただの先輩なんか?」

白い息が冷たい空気の中に溶けると、白いマフラーから覗いた薄い唇は緩やかな弧を描き紡がれ、やや上がった口角の下には笑いぼくろがある。仁王先輩だ。ただの先輩なんかじゃない。仁王先輩なのだ。特別な先輩。誰よりも格好良くていとおしい、大切なひと。

「それは・・・」
「それは?なん?」
「ち 違います」
「それなら・・・何じゃ?言うてみぃ」

翻弄される。仁王先輩の声も目も。操られてるみたいに、私は私がだんだんと溶けていくのがわかった。冷たい風がぴゅう、と吹くと自分の髪が勢いよく風に流され頬を撫でる。ひんやり冷たい空気を気持ちいいとさえ感じるほどに顔が熱くて仕方がなかった。仁王先輩をまともに見ることなんて、もうできない。

「つ 次は私が質問してもいいですか?」

立ち止まって、顔を伏せて、ぎゅっと両の手でこぶしを握った。私の声はやっぱりと言うべきか少し上ずっていて余計に恥ずかしい気持ちに拍車がかかる。

「意外と積極的なんじゃのう、も」

仁王先輩も足を止める。私のすぐ正面でに立っていることがわかった。滑らかな革靴は揃ってまっすぐにこちらを向いている。頭の上に降る仁王先輩の声が何よりの証拠だ。

「あの・・・」

仁王先輩にとって私はただの後輩ですか?

そんな質問ができるほどの勇気を私は持ち合わせていないし、そんなことを訊けるような仲でもない。おこがましいにもほどがある。そんなことはわかっている。だけど私にとって仁王先輩は特別で。テニス部のどの先輩よりも私の知っているどの男のひとよりも、せかいじゅうの誰よりも私は、仁王先輩のことが―――










「仁王先輩、お誕生日おめでとうございます!」

意を決した私の口から飛び出してきた言葉に仁王先輩は笑い声で返事をする。
くつくつという静かな笑い声が頭の上に降ってきて、ゆっくりと顔を上げてみると仁王先輩は目を細めて笑っていた。仁王先輩の肩が上下に動くたび白い息が生まれては消え、生まれては消え。こんなふうに笑う仁王先輩を私は見たことがなかった。何か私はおかしなことを言っただろうか。おめでとうございます、と、仁王先輩にお祝いの言葉を、今日という日に感謝の気持ちを声にしただけなのに。

「そりゃ質問じゃないが」

おろおろとしているだけの私に仁王先輩が種明かししてくれたところでようやく私の疑問符は解けた。自分が何を言っているのかよくわかっていないということがよくわかった。

「え、あ、そ そうでした・・・すみません」
「飽きんね、お前さんの隣は」
「それは、どういう意味・・・」

褒められているのか貶されているのか、またにやりと、私の好きな笑い方をした仁王先輩はそれまでずっとポケットの中に突っ込んでいた手を寒気に晒すとそのまま私の頭の上に置いてするりと滑らせた。
冷たくなっていたはずの髪に一気にその熱が伝う。仁王先輩の手は想像していたよりもずっとずっと、あたたかい。

「ありがとうっちゅう意味じゃ」

もう一度。仁王先輩が私の髪を撫でるとふわり、吐息よりも柔らかく微笑う。まるで魔法にかかったみたい。そんな笑顔見せられたらもっともっともっとずっと仁王先輩のことが好きになっちゃうじゃないですか、と、もう少しで声に出してしまいそうなくらい、心臓がドキドキして、からだじゅう熱くて、なにも考えられなくて。
魔法なんてとっくに解けていると思ってたのに。ああ、もう。騙された。



狐火プレリュード