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午前の日光をふんだんに含んだ畳は、内側から熱を放っているようだった。暖かくて、柔らかい。まるで何かを貪るかのように私を掻き抱くリジェネの肩越しに、庭に植えてある桜が見えた。まだ五分咲きかしら。生憎リジェネは桜の知識などないから聞けないし、そもそも桜に興味など無いようだった。 柔らかに跳ねるリジェネの髪。藤色だわと言ったら、富士のことだと勘違いされてしまった、おかしくて愛しい髪の毛。あちらこちらに飛んでいるくせ、指通りがとても良いので、私はとても気に入っている。 「リジェネ」 「うん」 「痛い」 「うるさい」 ぴしゃりとはね除けられる。髪から指を離しゆるゆると背に腕をまわせば、「」少しだけ力が緩められ、リジェネの整った顔が視界に入った。 リジェネは時折こうして私を抱きしめる。リジェネのような男が癒しなど求めているとは到底思えないけれど、いろいろぐちゃぐちゃと織り交ざった感情の奥の方に、確かに私を愛してくれている暖かさが見え隠れするので、私は決してそれを拒むことはしない。 「リジェネって本当に綺麗な顔」 はね除けられた腹いせに、眼鏡を外しながら態と彼が好ましく思わない言葉をかける。案の定彼は顔を歪めた。歪めていてもとても綺麗な、人工物の表情。彼と全く同じ顔をした存在は、リジェネとは違いまっすぐに落ちた髪を持っていて、それが何だか悔しかった。リジェネが何を考えて日々生活しているのかは分からない。同じ染色体の存在に対して、何を感じ、どうしようとしているのかも分からない。それでも、私は気に食わないのだ。リジェネが嫌な想いをするものは、すべてなくなってしまえばいいのに。 「君の庭の桜はとても綺麗だね」 桜のことなんて分からないくせに。桜なんて一度も見ていないくせに。リジェネは歪めながら尚笑おうと勤め、口を尖らせた私をもう一度引き寄せた。肩口に額を摺り寄せられ、どうしようもないほど胸が締め付けられる。普段は憎まれ口しか叩かない、皮肉屋の彼が。愛しい。この小さな、子どものような男の人が、愛しくてたまらないのだ。強く抱きしめ返すと、「」もう一度、静かに名前を呼ばれる。 「桜とリジェネは似てる」 「儚くて綺麗なところかい?」 「・・・そういう自覚があるところ」 彼は漸く笑って、耳裏に一つキスを送った。視界いっぱいの藤色。どうか彼が儚い存在になどならないように目を瞑り祈る。出来れば春の暖かさが、少しでも彼を長く留めてくれますようにと。
不治の祈り
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