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お茶などどうですか、と再三誘われてきたが、特別興味も無いので断り続けてきた。カタギリさんを仕事仲間以上に見たことなど無かったし、むしろこうやってお茶に誘ってくる彼は、正直鬱陶しかった。 眼鏡をかけた男性は残念だけど好みで無いし、長髪の、ましてやポニーテールの男性だなんて、全く持って守備範囲外だ。男性を見た目で選ぶなど!と世間一般の人たちは言うかもしれない。私だって少しはそう思う。けれど、けれどどうしても好み好みじゃないは出てくるし、おまけに彼のナヨナヨとした性格も、思い切りボールだった。スリーボール、カタギリ選手後がありません。 「カタギリさんって犬みたいですね」 きょとんとした表情を向けられる。お茶は嫌だけどプラネタリウムなら良いですよと言った私に、モニターを指しながら星座について説明し始めた彼は、そんなことを言われるだなんて思っていなかったのだろう。再三誘われその度断り続けたが、あまりにも彼がしつこ過ぎたので、慈悲の心でデートのチャンスを与えてあげただけなのに。 「ええと、どういうことだい」 「わんわん」 「・・・わん」 忠心的で馬鹿正直。レディの心なんて全く分からないようだし、ただ一直線にぶつかってくる。恋愛とはもっと駆け引きを楽しむものでしょう?少なくとも私はそう思っているし、彼に恋愛対象としてそれを強要するつもりも無いけれど、それでもあまりにデリカシーが無いと、レディに呆れられてしまうわよ。私にそれほどの経験値があるのかと問われれば、残念ながら答えはノーだけれど。 「私は人の死ぬ星空ではなく、人工的で平和な星空がみたいと言ったのです」 ああ、それはすまなかった。カタギリさんは頬を掻きながら眉を下げる。技術者のくせにそんなことも分からないなんて。内心ガッカリとしながら、意味ありげな視線をわざと送ってみるけれど、カタギリさんはそれにすら気付いていないようだった。ただ何を思ったのか、彼は私の顔をまじまじと見ながら、 「、君は猫みたいだね」 なんてことを言う。猫は好きなので不愉快ではない。どうもと返せば、彼はやわらかに表情を崩した。否、やわらかに、というのは嘘だ。その瞳の中には明らかに雄の熱さが秘められていて、それは今にも私をぱくりと食べてしまいそうなほど、ゆらゆらとこちらを狙っている。 「懐かせたくなるよ」 驚いて口をぱっかりと開けてしまった。どうにかして閉じようとするけれど、見っとも無くあいたまま塞がりそうに無い。だってそうでしょう、お茶などどうですかとしつこく誘ってきた、なよなよしい彼は一体どちらへ行ってしまったのかしら?目の前には本物の星空、すぐ横には私を狙っているピッチャー。ああ、変化球、際どいコース。 「・・・にゃー」 仏頂面を作りながら答えてみせれば、彼は至極満足そうに目を細め、そうして私の手を取った。想像していたよりも無骨で筋張った手。もう少し、線の細い人だと思っていたけれど。その違いに思わず胸が高鳴る。流されてはいけない。何せ彼はタイプからかけ離れた人なのだ。眼鏡で長髪、おまけにポニーテール。なよなよしくて、レディの気持ちが分からない。それにだってほら、お手は猫がするものではないのに!
忠犬御主人様 |